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はじめに。

2014年06月05日
こちらは、オリジナル創作小説『BATTLE/BATTLE』の見本ページです。

第一話の中盤まで読めます。

左ページのリンクから好きなページにアクセスして読んで下さい。

続きは→『こちら






20xx年、未来都市『ホワイトシティ』に突如現れたキラーロイド、『SATAN(サタン)』。

彼の出現によって、平和だったリアル(こちら)とバーチャル(あちら)の世界の均衡が乱れ、リアルの世界にも魔物が現れるようになってしまった。

そんな狂った世界を変えるべく、少年たちは立ち上がった。サタンの真相を探るためにーー


“これは、過去の記憶を失った、一人の少年の物語ーー"







「だぁからっ! さっきっから言ってるじゃないっスか!」

放課後。時計の針が午後三時半を指した頃。一人の生徒の声が職員室中に響き渡った。よく通る声だった。

「オレはただっ、虹色学園の先輩達に絡まれただけでっ! 別に水瀬センセイに怪しまれるようなコトは、これっぽっちもしてませんって!」

声の主はまだ幼い少年だった。……いや、見方によっては少女にも見えなくはない。が、しかし、今年で十一歳になる男の子供だ。

淡い栗色の癖毛を肩口ギリギリまで伸ばしているせいか、それとも生まれ持った目鼻立ちのせいか、少年というより少女のほうがしっくりくるが……

とにかく彼はこの『白櫻(はくおう)学園』に通う小学五年生の少年だ。名は、長瀬輝(たける)。つい二週間前にこの学院へ転校してきたばかりの問題児であり、同時に、担任である水瀬にとっては抱えきれない悩みの種でもある。

「本当に、何もやっていないのね?」

「当たり前だろ? このオレ様に限ってそこらのチンピラ中坊とケンカなんかす……じゃなかった。僕はっ……とにかく僕は!そう易々と他校の先輩に暴力を振るような真似はしませんって!」

 ――今更言葉遣いを変えたってもう遅い。私にはバレバレなのよ。キミのその性分からして、中学生の不良相手に大人しく引き下がるなんてことは絶対にないってことくらい、二週間もこの子の担任をやっていれば嫌でも分かる。

とは言っても、どこにでもいるような、ごく普通の無邪気な生徒なら、たかが二週間くらい一緒に教室を過ごしたくらいじゃ、おおよその性格くらいしか掴めない。

何せ、思春期入りかけの一番難しいお年頃だ。そう簡単に距離を詰められるほど、子供心は簡単に攻略できるモノではない。けれど、この子の場合は一目見てすぐに分かったのだ。

少なくとも、この子がどこにでもいるような、ごく普通の無邪気な生徒じゃないことくらいはすぐに見て取れたのだ。

「本当に?」

「ホントだってば! 本当に僕は何もしてません!」

「本当に?」

「本当! 超ほ・ん・と・う!」

 ここまで言い張る彼を、これ以上問い詰めたところで時間の無駄だろう。

水瀬は深く溜め息をつくと、たけるに『もう帰っていいよ』と伝え、手を振り彼の背中を見送った。今頃ざまあみろとでも嘲笑っているんじゃないのかしら。再び職員室の机に座るなり水瀬は頭を抱え込んだ。







彼……長瀬輝(たける)は表向きはどこにでもいるようなごく普通の子供だった。あえて違いを言うなら、普通の子供より頭が良くて、スポーツが得意な所くらいだろう。

だが、それでもこの学園ではかなり目立つ。成績優秀・運動神経抜群な彼の周りには、いつもたくさんの人だかりができる。男女問わずよくモテるのだ。それはただ単に、成績優秀児としてだけではなく、彼の見た目も絡んでいるはずだ。

栗色の中途半端な長さの髪といい、まるで人形か何かのようなぱっちりとした目、通った鼻筋、薄く形の良い桜色の唇。そして程よい肉付きの、白くきめ細やかな肌。どれを取っても美少年と騒がれるだけのことはあった。

 そんな彼がどうしてまた、こんな平凡すぎる学園へ転校してきたのだろうか。誰もがそう思うだろう。何せ、彼は元・虹色学園初等部の生徒だ。電車でここから約一時間ほどの所にあるそこは、偏差値がここより50も高いエリート学園なのだ。こんな平凡じみた学園を選ぶより、そちらのがよっぽど彼には合っているだろう。

だがしかし、彼は自ら進んでこの学園に転校してきたのではない。『飛ばされた』のだ。

 そう、彼がここへ飛ばされたのにはワケがある。彼には抱えきれない問題が山ほど存在する。一つは、口より先に手が出る性分。……まあこれはまだいい。二つ目に比べればまだ可愛いものだ。肝心なのは二つ目。二つ目のワケ、それは、彼が『ダーク・ネクロフィリア』と深く関わっていることだった。

「校長!なんであんな危険すぎる子をわざわざうちの学園に転入させたりしたのですか!?」

 彼が転校して三日目の放課後。水瀬は校長室に飛び込むなりそう叫んだのをよく覚えている。

「彼はあの『ダーク・ネクロフィリア』の手下かも知れないんですよ!?」




 ――それは、昼休みに起こった出来事だった。


**********


 まだ空は明るかった。職員室でうとうとしていた水瀬は、教え子の声に呼び起こされた。


「先生大変!長瀬くんが!」


 何事かと思い、生徒の後を着いていくと、そこに彼は立っていた。校門を背に、ただ立っていた。それだけだ。


「どうかしたの?」

「別に。何もないですけど。先生のほうこそ、そんなに慌ててどうかしたんですか?」


「私はさっき、山田君に呼ばれてここまできたんだけど……あれ?山田くん?」

 そこに山田の姿はなかった。あったのは、彼ただ一人だけだ。


「先生。あんまり僕をおちょくらないで下さい」


 そう言い残すと、彼は校舎へ消えていった。いつもはにこやかな彼の目が、一瞬だけ鋭く鋭利な刃物のように見えたのは気のせいだと思った。思いたかった。


 放課後、水瀬は山田を職員室に呼び寄せ、事の発端を問い詰めた。山田はキョロキョロと辺りを見渡してから、水瀬に耳打ちした。


「長瀬くんが、ダーク・ネクロなんとか……あっと、名前は忘れたんだけど、指名手配されてるヤバイおじさんに誘拐されかけてたんだ」

「……えっ!?」


 嘘でしょう?とっさに声をあげていた。山田が言うには、たけるは、黒塗りの怪しい車に無理やり押し込まれていたらしい。


「それで僕は慌てて先生を呼びにきたんだ。だけど――」

 そこには奴等の姿はなかった。そんなところだろう。


「けど……長瀬くんに、あいつに口止めされたんだ。『このことは絶対誰にも言うな』って。言ったらタダじゃ済まさないって脅されたんだ」


 ――ああ、だから山田くんはあの時、あの場所に居なかったのね。


 そういえばあの時、一瞬だけ、長瀬くんの目がどこか遠くを睨んでいたのを覚えている。あれはそういう意味だったのか。


「それでも、私の言うことを聞いてここまで来てくれたのね。ありがとう。山田くん」

「いえ。ただ僕は……例え脅されようが何だろうが、長瀬くんの身に何かあったら嫌だから……それで」


 怯えながら話す山田の目には涙が浮かんでいる。よほど彼が怖いのだろう。水瀬は震える教え子の身体をそっと抱きしめる。


「わかったわ。ありがとう。このことは私と山田くん、二人だけの秘密ね」

「はいっ!」


 そう約束すると、水瀬は山田と指きりをした。バタバタと慌しく走り去っていく彼の背中を見送ってから、校長室へと向かった。そして、先ほどの会話に戻る。



**********

「もしあの子が『ダーク・ネクロフィリア』と関わっているのなら、即刻退学させるべきです!」


 しかし、この学園の初等部には退学制度など存在しない。存在するのは中等部以上からだ。そんなことは頭では分かっている。頭では分かっていても、口に出してしまうは人間誰しもよくあることだ。


「校長!」

「水瀬先生。落ち着きなさい」

「そんなこと言われたって……!」

「長瀬君が転校してきた日に、私、先生に言いましたよね?あの子は『普通の子』とは違うと」


 校長はゆっくりとした口調で続ける。そのまなざしは、まっすぐに水瀬を捕らえて離さない。


「だからあの時、私はあなたに頼んだのです。どうかあの子を『普通の子』と同じように接してあげて下さいね、と。担任のあなたまでそんな態度じゃ、今は良くても、いずれあの子は登校拒否児になってしまう。虹色学園に居たときと同じように……」


 彼、長瀬輝は元登校拒否児だった。本人から直接の理由は聞いていないが、小学三年生の頃からずっと、学校に来ていないらしい。それが『ダーク・ネクロフィリア』と関係しているのならば仕方のないことだ、水瀬はそう思った。


「私は、例えどんな境遇だろうがどんな生活環境で育った子だろうが、全て平等に接すること、それが私たち教師の役目だと思うのです」


 ――そんなのタダの綺麗ごとだ。綺麗ごとばかりじゃこの仕事はやっていけない。


「水瀬さん。まだあなたは若い。これからこの学校で学ぶべきことは沢山出てくるでしょう。その中には辛い事や悲しいこともある。けれど、それだけじゃない。辛い事や悲しいことがあれば必ず、それに見合った嬉しいことや楽しいことがやってくる。人生とはそういうものですよ」




 ――人生とはそういうものですよ。



 あの時の校長の言葉を頭の中で呟いてみる。呟いたところで何もならない。けれど、このまま頭を抱え続けるよりはマシだった。


 私は校長に期待されている。ただ単に、二一歳という若さで教師をやっているからではなく、試されているような気さえ感じた。けれど、それが何なのか自分では分からない。校長は一体何を私に求めているのだろうか。日の沈み始める窓を見ながら、水瀬は再びため息をついた。


一方、当のたけるはというと、担任の悩みなどおかまいなしに、それなりに学校生活を楽しんでいた。


「じゃあなー!」

「うんっ」


 クラスの中でも目立つ、新品の青いカバンを背負うと、教室を後にした。教室を出るときに二人の男子生徒の会話が耳に入ったが、自分には関係ないとかぶりを振り、教室を出た。


「なあ宮田、知ってるか?またSATAN(サタン)が出たんだってよ」

「マジで!?」

「ああ。レインボータワーのど真ん中で、ナイトの連中と戦ってたって。朝のニュースでやってた」

「えーマジで!? いいなあオレも近くで見たかった」

「馬鹿言ってんじゃねえよ。あんなの近くで見てたら殺されちまうかも知れないぜ? ナイトの連中にさ」

「それありえる! ありえる冗談すぎて笑えねー!」


 ぎゃはははと馬鹿みたいに笑う同級生の声が廊下に出ても聞こえた。何が笑えないだ。思いっきり笑ってるじゃねえか。




 ――SATANか。また出たのか。




 SATANとは、たけるが幼少期の頃から存在している化け物の呼び名だ。

 いつから現れるようになったか詳しくは不明だが、黒と赤の衣装を纏い、蝙蝠のような大きな翼に大きな鎌を持つことからその名が付けられた。マスコミが勝手に付けた名前であって、本当の名前は誰も知らない。記憶が戻ればもしかしたら分かるのかも知れないと時々思うが、今更得体の知らない化け物の名前なんか知ったところで何にもならないのは分かっている。


 しかし、SATANが現れただけならマスコミだってそんな大騒ぎすることはなかったはずだ。厄介なことに、奴はこの地に魔物(モンスター)まで引き連れてやってきた(と近所のおばさんが言っていたのを思い出した)のだ。


 今までモンスターなんて、この街の子供は勿論、大人でさえゲームの世界やおとぎ話で見聞きした程度の知識しか備わっていない。そんな非力な連中が、奴等と対等に戦える術は勿論なかった。故に、このホワイトシティの街並みは、崩壊寸前まで追い込まれた。


 ――もっとも、その頃の記憶は今のオレにはないんだけどな。

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