「校長!なんであんな危険すぎる子をわざわざうちの学園に転入させたりしたのですか!?」
彼が転校して三日目の放課後。水瀬は校長室に飛び込むなりそう叫んだのをよく覚えている。
「彼はあの『ダーク・ネクロフィリア』の手下かも知れないんですよ!?」
――それは、昼休みに起こった出来事だった。
**********
まだ空は明るかった。職員室でうとうとしていた水瀬は、教え子の声に呼び起こされた。
「先生大変!長瀬くんが!」
何事かと思い、生徒の後を着いていくと、そこに彼は立っていた。校門を背に、ただ立っていた。それだけだ。
「どうかしたの?」
「別に。何もないですけど。先生のほうこそ、そんなに慌ててどうかしたんですか?」
「私はさっき、山田君に呼ばれてここまできたんだけど……あれ?山田くん?」
そこに山田の姿はなかった。あったのは、彼ただ一人だけだ。
「先生。あんまり僕をおちょくらないで下さい」
そう言い残すと、彼は校舎へ消えていった。いつもはにこやかな彼の目が、一瞬だけ鋭く鋭利な刃物のように見えたのは気のせいだと思った。思いたかった。
放課後、水瀬は山田を職員室に呼び寄せ、事の発端を問い詰めた。山田はキョロキョロと辺りを見渡してから、水瀬に耳打ちした。
「長瀬くんが、ダーク・ネクロなんとか……あっと、名前は忘れたんだけど、指名手配されてるヤバイおじさんに誘拐されかけてたんだ」
「……えっ!?」
嘘でしょう?とっさに声をあげていた。山田が言うには、たけるは、黒塗りの怪しい車に無理やり押し込まれていたらしい。
「それで僕は慌てて先生を呼びにきたんだ。だけど――」
そこには奴等の姿はなかった。そんなところだろう。
「けど……長瀬くんに、あいつに口止めされたんだ。『このことは絶対誰にも言うな』って。言ったらタダじゃ済まさないって脅されたんだ」
――ああ、だから山田くんはあの時、あの場所に居なかったのね。
そういえばあの時、一瞬だけ、長瀬くんの目がどこか遠くを睨んでいたのを覚えている。あれはそういう意味だったのか。
「それでも、私の言うことを聞いてここまで来てくれたのね。ありがとう。山田くん」
「いえ。ただ僕は……例え脅されようが何だろうが、長瀬くんの身に何かあったら嫌だから……それで」
怯えながら話す山田の目には涙が浮かんでいる。よほど彼が怖いのだろう。水瀬は震える教え子の身体をそっと抱きしめる。
「わかったわ。ありがとう。このことは私と山田くん、二人だけの秘密ね」
「はいっ!」
そう約束すると、水瀬は山田と指きりをした。バタバタと慌しく走り去っていく彼の背中を見送ってから、校長室へと向かった。そして、先ほどの会話に戻る。
彼が転校して三日目の放課後。水瀬は校長室に飛び込むなりそう叫んだのをよく覚えている。
「彼はあの『ダーク・ネクロフィリア』の手下かも知れないんですよ!?」
――それは、昼休みに起こった出来事だった。
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まだ空は明るかった。職員室でうとうとしていた水瀬は、教え子の声に呼び起こされた。
「先生大変!長瀬くんが!」
何事かと思い、生徒の後を着いていくと、そこに彼は立っていた。校門を背に、ただ立っていた。それだけだ。
「どうかしたの?」
「別に。何もないですけど。先生のほうこそ、そんなに慌ててどうかしたんですか?」
「私はさっき、山田君に呼ばれてここまできたんだけど……あれ?山田くん?」
そこに山田の姿はなかった。あったのは、彼ただ一人だけだ。
「先生。あんまり僕をおちょくらないで下さい」
そう言い残すと、彼は校舎へ消えていった。いつもはにこやかな彼の目が、一瞬だけ鋭く鋭利な刃物のように見えたのは気のせいだと思った。思いたかった。
放課後、水瀬は山田を職員室に呼び寄せ、事の発端を問い詰めた。山田はキョロキョロと辺りを見渡してから、水瀬に耳打ちした。
「長瀬くんが、ダーク・ネクロなんとか……あっと、名前は忘れたんだけど、指名手配されてるヤバイおじさんに誘拐されかけてたんだ」
「……えっ!?」
嘘でしょう?とっさに声をあげていた。山田が言うには、たけるは、黒塗りの怪しい車に無理やり押し込まれていたらしい。
「それで僕は慌てて先生を呼びにきたんだ。だけど――」
そこには奴等の姿はなかった。そんなところだろう。
「けど……長瀬くんに、あいつに口止めされたんだ。『このことは絶対誰にも言うな』って。言ったらタダじゃ済まさないって脅されたんだ」
――ああ、だから山田くんはあの時、あの場所に居なかったのね。
そういえばあの時、一瞬だけ、長瀬くんの目がどこか遠くを睨んでいたのを覚えている。あれはそういう意味だったのか。
「それでも、私の言うことを聞いてここまで来てくれたのね。ありがとう。山田くん」
「いえ。ただ僕は……例え脅されようが何だろうが、長瀬くんの身に何かあったら嫌だから……それで」
怯えながら話す山田の目には涙が浮かんでいる。よほど彼が怖いのだろう。水瀬は震える教え子の身体をそっと抱きしめる。
「わかったわ。ありがとう。このことは私と山田くん、二人だけの秘密ね」
「はいっ!」
そう約束すると、水瀬は山田と指きりをした。バタバタと慌しく走り去っていく彼の背中を見送ってから、校長室へと向かった。そして、先ほどの会話に戻る。
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