一方、当のたけるはというと、担任の悩みなどおかまいなしに、それなりに学校生活を楽しんでいた。
「じゃあなー!」
「うんっ」
クラスの中でも目立つ、新品の青いカバンを背負うと、教室を後にした。教室を出るときに二人の男子生徒の会話が耳に入ったが、自分には関係ないとかぶりを振り、教室を出た。
「なあ宮田、知ってるか?またSATAN(サタン)が出たんだってよ」
「マジで!?」
「ああ。レインボータワーのど真ん中で、ナイトの連中と戦ってたって。朝のニュースでやってた」
「えーマジで!? いいなあオレも近くで見たかった」
「馬鹿言ってんじゃねえよ。あんなの近くで見てたら殺されちまうかも知れないぜ? ナイトの連中にさ」
「それありえる! ありえる冗談すぎて笑えねー!」
ぎゃはははと馬鹿みたいに笑う同級生の声が廊下に出ても聞こえた。何が笑えないだ。思いっきり笑ってるじゃねえか。
――SATANか。また出たのか。
SATANとは、たけるが幼少期の頃から存在している化け物の呼び名だ。
いつから現れるようになったか詳しくは不明だが、黒と赤の衣装を纏い、蝙蝠のような大きな翼に大きな鎌を持つことからその名が付けられた。マスコミが勝手に付けた名前であって、本当の名前は誰も知らない。記憶が戻ればもしかしたら分かるのかも知れないと時々思うが、今更得体の知らない化け物の名前なんか知ったところで何にもならないのは分かっている。
しかし、SATANが現れただけならマスコミだってそんな大騒ぎすることはなかったはずだ。厄介なことに、奴はこの地に魔物(モンスター)まで引き連れてやってきた(と近所のおばさんが言っていたのを思い出した)のだ。
今までモンスターなんて、この街の子供は勿論、大人でさえゲームの世界やおとぎ話で見聞きした程度の知識しか備わっていない。そんな非力な連中が、奴等と対等に戦える術は勿論なかった。故に、このホワイトシティの街並みは、崩壊寸前まで追い込まれた。
――もっとも、その頃の記憶は今のオレにはないんだけどな。
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