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全てのはじまり(6)

「アンタ、あいつらと関係あるんでしょ?」


 ひかるの目つきが厳しくなる。獲物を捕らえる魔物のような目だ。その目線から逃れるように、たけるは昇降口の先へと視線を流す。


「別に……何もねえけど」

「嘘よ」


 ぴしゃりと、放つように彼女は言った。


「アンタ、あいつらとはどういう関係なの?」


 一歩、また一歩と彼女は詰め寄る。反対に、一歩、また一歩と後ろへ下がるたける。


 ――何でこいつが奴等を知ってる? 何でオレが奴等と関わっていることを知ってる?


「じゃあ話題変えるわ。アンタは五歳のときに三日間『家出』した。そのちょうど一日目に、あたしのお兄ちゃんが殺された。そう、あいつらに。この二つは何か関係あるワケ?」

「知らねえよ」

「アンタは八歳のときにもまた『家出』した。それも三年間」

「知ら……」


 ――答えようがなかった。





「……何してたの? この期間」

 ――答えられるはずがなかった。



 そもそもが、ひかるの言っていること自体が意味不明なのだ。自分には八歳の時の記憶すら残っていない。そんなこと、知る由もない。


「まさか三年間、何もしてなかったなんて言わないよね?」


 かと言って、今ここで『実は記憶喪失でした』なんてバラしたところで後々めんどくさいことになるのは目に見えている。これ以上面倒事を背負い込むのはまっぴらだ。


「だから知らねえって――」

「正直に言いなさい!」

「――っ!」



 あまりの剣幕に、思わず息を呑んだ。心臓が止まるかと思った。

 ――もういっそ、本当のことをバラしちまおうか。そんな気さえした。


 普段はおしとやかな彼女が、まさかここまで奴等や自分の過去に執着しているとは考えもしなかった。ましてや彼女に実の兄妹が居て、自分が五歳のときに奴等に殺された話なんて、二週間彼女の隣の席に座っていたけど、聞いたことすらなかったのだ。


 それどころか、自分が二回も『家出』していたなんて、夢にも思わなかった。確かに自分は居候という立場にあるけれど、千尋や千尋の母との共同生活には何の不満もなかった。あるとすれば、もう少し習い事を減らして欲しいと感じるくらいだ。


 けれどもし、自分の過去にひかるや彼女の兄、それに千尋や千尋の母が関わっているのなら、いずれは自分が記憶喪失だということも話さなくてはならない。そう考えれば、今ここでひかるにバラした所で早いか遅いかの問題だった。