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全てのはじまり(5)

 そんな窮地を救うべく現れたのが、『ナイト』と呼ばれる特殊訓練を受けた戦闘兵だった。


 彼らはモンスターを始末することで生計を立てている。彼らの給料が、たけるのおこづかいよりも高いのか低いのかは不明だが、彼らのお陰で街の平和が保たれているのは確かな事実だ。


 ――SATANにナイトにモンスター、まるで現実(リアル)の世界がバーチャルにでもなったみたいだな。


 武装したナイトやモンスターを見かけるたびに、たけるは思う。もし自分がナイトだったらと考えたこともある。


 ――もしもオレがナイトなら『ダーク・ネクロフィリア』なんか一捻りなのに。


 そもそもが、何故奴等が自分の命を狙うのかが未だ分からない。分かることと言えば、自分の過去の記憶と奴等が絡んでいることくらいだ。


 そう、たけるには過去の記憶がない。正確には、生まれてから半年前までの記憶がないのだ。記憶を失う前の幼少期に、自分が何か重大な過ちを犯したせいで、奴等に命を狙われるようになったわけだが、それが何なのか思い出せない。早く思い出したい気持ちもある反面、思い出すことに躊躇う気持ちもある。どちらにしても、あまり楽しい過去ではないのだ。


 上履きを下駄箱にしまうと、いつものようにスニーカーに履き替える。緑色をベースに黄色のラインが二本入ったそれは、三日前に買ったばかりで汚れ一つ目立たない。


「あっ長瀬くん」


 昇降口の入り口付近で、女子に話しかけられた。同じクラスの神原光(ひかる)。たけるとは席が隣同士の彼女は、今日も頭に大きな赤いリボンを付けている。


「今日は一人なんだ」

「まあね」

「アンタにしては珍しいじゃない。いつもは千尋さんと一緒なのに」

「あいつならオトモダチと帰るんだってさ。男のトモダチ」

「ふーん」


 ひかるの顔がわずかににやけた気がした。


「浮気されたってわけ」

「馬鹿、そんなんじゃねえよ」

千尋とはそんな関係ではない。決して、ひかるが考えているようなやましい関係ではない。ただ、住んでいる家が一緒なだけだ。もっと詳しく言えば、千尋の家にたけるが居候しているだけに過ぎない。勿論部屋は別々だし、風呂に入る時間だってバラバラだ。一緒なのは食事をする時とテレステ(ゲーム機の名前)で遊ぶ時くらいでやましいことは何一つもない。


「あいつとはただの従姉弟だって、前話したろ?」

「うん。でもさ、その割にはアンタ、千尋さんの話ばっかしてるじゃない?」

「そうかあ?」

「うん」


 そんなことはどうでもいい。どうでもいいことなのに、ひかるはやたらこういう話に突っ込んでくる。これだから女子は嫌なんだ。


「あんまり、調子に乗るんじゃないわよ?」

 唐突に、彼女はそんなことを言った。


「はあっ?」


 意味がわからなかった。が、すぐに千尋のことだと気付いたので言い返す。


「だからさあ、オレは別に千尋とは――」

「あいつらのことよ」






「え?」





「ダーク・ネクロフィリア」






 その言葉に、どくんと大きく、心臓が脈を打った。まさかひかるの口からその単語が飛び出すなんて、これっぽっちも予想していなかったからだ。予想外の言葉に、たけるの鼓動は早まる。