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全てのはじまり(9)

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 どれくらい時間が経っただろう。ゲーセンから出ると辺りはすっかり暗くなっていた。


厚い雲が空全体を覆い隠し、遠くで雷が鳴り響く。いつもなら沢山の人で賑わっている通りのはずが、今日は誰一人として見当たらない。


 ――やべえ、今日に限って傘持ってねえんだった!


 今になって、今日の天気予報を思い出す。曇りのち雨。所により雷雨。


 思い出したとたん、ああやっぱりあの時帰っておくべきだったと後悔した。高いところやお化け屋敷と同じくらい、たけるは雷が大の苦手なのだ。こればかりは、記憶を失う前から苦手だったと断言できる。

 
 早く家に帰らないと。焦る気持ちが胸の中を支配する。早く帰りたい一心で、馴染みの通学路を走った。走ったつもりだった。




 ドンッ!




 全身が何かにぶつかり、地面に腰を打つ。


「いってえ!」

 見上げると、男が一人立っていた。


「ちょっ! どこ見て歩いて――」

 言いかけた言葉は、雷の音に掻き消された。


 闇に溶ける漆黒のスーツ。黒いサングラス。頭から爪先まで黒ずくめの男。たけるは、この男たちをよく知っている。


 ――まずい。


 咄嗟の判断で地を蹴る。男とは反対方向へ走る。力の許す限り全速力で走った。


 ――また奴等が現れた。


 追ってきた銃弾が肩を掠める。下手クソ!そう罵ってやりたいところだけど、とてもそんな余裕はない。何せ、『奴等』はしつこい。一度見た獲物は逃さない。そういう方針なんだろう。ちらりと背後を見やると、どこから現れたのか、追っ手は五人に増えていた。


 これだけ派手に騒いでいるのに、誰一人として見当たらないのは何故だろう。いつもなら犬を連れて散歩しているおばさんも、部活帰りの高校生の姿も見当たらない。それどころか、店や建物内に人がいる気配すら感じない。まるで時が止まったかのようだ。それがせめてもの幸いか。人がいたらいたでまた警察やナイトのご厄介になる。面倒事だけは避けたいところだ。


 走って走って、走った先には公園が見える。確かその先には深い森が広がっているはずだ。そこでなら、奴等を撒ける。


 ――よし、突っ込むぞ!


 雨足が強まる中、ずぶ濡れになる全身を振り絞って、たけるは森の中へと身を投げた――